日本では全く話題になってないらしいが、2020年はポーランドでも大統領選の年だ。
5年に一度の選挙は当初は5月10日に予定されていたが、コロナの影響で第1回投票は6月28日に延期された。
大統領選に関するデータはこちらのサイトでチェックできる。
6月28日の投票に関するレポートはこのサイトが見やすいと思う
(どの県で誰が強かったなどもチェックできる)
7月12日の最新ニュースはこちらから
11人が大統領に立候補していたが、いずれの候補も50%以上の得票率を獲得できず、上位2名の候補が7月12日に決選投票に臨むことになった。
この2名というのは、右派与党PiSが推す現職大統領のAndrzej Duda(アンジェイ・ドゥダ)と、野党候補で現ワルシャワ市長のRafał Trzaskowski(ラファウ・トゥシャスコフスキ)。
6月28日の得票率はDuda 43.5%、Trzaskowski 30.5%。
Trzaskowskiの「Trza」は日本語でどう表記すべきか迷うところである。日本人の耳には「チシャ」に近く聞こえるが、日本語に堪能なポーランド人の友人にアドバイスを求めたところ「トゥシャ」のほうがいいのではないかということだったので、ここではトゥシャスコフスキと表記する。
混迷を極めながら6月28日の第1回目の投票をむかえるまでの様子、選挙直前のDudaのアメリカ訪問、今回の大統領選は「ただの大統領選」ではなく、非常に大きな意味合いを持つということなどを、国際政治学者の方が解説されている。

なんかミステリー小説でも読んでいるような気になる。ポーランド人でもここまで系統だって正確に情報を把握してる人は少ないのではないだろうか。
大局的なことはこちらで解説されているので、
私は自分のフィールドであるメディアやPRという観点から、気になったところをいくつか取り上げたい。
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7月12日の決選投票はDuda対Trzaskowskiというよりは
PiS対Trzaskowskiと言った方がよさそうだ。
現与党のPiS (Prawo i Sprawiedliwość/法と正義)の実権を握っているのは、党首のJarosław Kaczyński(ヤロスワフ・カチンスキ)。PiS=Kaczyńskiといっても過言ではないくらい。PiSは右寄り、自国中心主義などと国際社会から批判されることも多く、私の知り合いで支持する人は皆無と言っていい(むしろボロクソにけなしている)のだが、選挙をするとなぜか強い。特に地方や高齢者の支持が高いとされる。
地方と高齢者に強い理由の一つは公営放送局のTVPを掌握していること。
TVPは「TVPiS」などと呼ばれ、PiSのお抱え放送局として悪名高い。
似たような名前でTVNというのもあるが、こちらは別の会社。
公開日は2019年11月ではあるが、公営放送の乱用ぶりについて英語で書かれた記事がある↓

TVPのお抱え放送局ぶりはかなり露骨なのだが、なかには笑い話としか思えないものも。
たとえば6月の終わりには、アメリカのファッションデザイナーChristian Paulが、Duda夫人のファッションをほめちぎるという番組が放送されたが、実はこの人、アメリカ生まれではあるらしいがワルシャワ在住で、ファッション業界での実績はほとんどないということが判明。
ただしこれに関しては、Dudaの宣伝に見せかけた、反Dudaではないかと想像する。
マスメディアに従事する人間なら、視聴者・読者はどんな小さなミスでも必ず見つけてくるものだということを体験的に知っているはずだ。
都市部に住むメディア関係者といえばリベラルの典型。わざとバレバレな番組を作って溜飲を下げたのではないだろうか?(と個人的には思いたい)
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公営放送局を使った不平等な選挙キャンペーンは、選挙を監視したOSCE(Organization for Security and Co-operation in Europe:欧州安全保障協力機構)からも批判されている。
PiSは、公営放送局という強力な宣伝ツールを確保しているだけでなく、”ターゲット”にうまくアプローチすることにも長けている。
正確なターゲティング、ニーズの把握、そこに向けたわかりやすいメッセージ…
確かにPRの王道だ。。。
ドイツ資本の入ったメディア・Faktが、娘を性的虐待した小児性愛者の裁判にDudaが介入した件を特集した時は「ドイツの侵入」というニュアンスで応戦するなど、かわし方もなかなか巧妙。
さらに6月28日の投票日のわずか数日前に訪米し、トランプ大統領と会見するという他の候補には真似のできない離れ業をやっている。この”キャンペーン”の効果はかなり大きかったはず。
ちなみにこの後、オバマ元大統領はTrzaskowskiと電話会談を行った。オバマ側から持ちかけたようなので、「トランプはともかく、アメリカがDuda擁護というわけではない」と国際社会に示したかったのかもしれない。
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PRにはタイミングも重要な要素だが、Trzaskowski登場のタイミングは「遅れて来たヒーロー」という感じでまさに絶妙。
5月10日の時点では野党は別の候補を立てていたのだが、5月15日に急遽、新たに行われる選挙ではTrzaskowskiを擁立することを発表した。
英語で書かれた関連ニュース↓

Trzaskowskiは現ワルシャワ市長で知名度もある。
都市のリベラル層に人気が高く、6月28日の選挙でもワルシャワ、ヴロツワフ、グダンスクなどの大都市で強さを見せた。
そしてこの人、カッコいい。
現職の政治家をこのような言葉で語るのは失礼だとは重々承知しているが、
PRの観点からはキャストのルックスは重要な要素だ。
もしこの人が当選したら
「世界一インスタ映えする大統領」とかタイトルをつけて
人となりやライフスタイル(ちなみに奥さんもカッコいい系)などを日本のメディアに紹介するとポーランドのイメージアップにつながるんじゃないかと考えている。
(わりと本気で企画書検討中)
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7月12日の決選投票では接戦が予想されている。
投票所は7時~21時(CEST)まで開いており、海外からの投票分もあるので正式な集計結果の発表は月曜日以降になるだろうが、出口調査の結果は今夜、発表されるだろう。
カギを握る要素の一つは、28日の投票で4位だった Krzysztof Bosak(クシュシトフ・ボサク)の票がどこに流れるかではないだろうか。
写真だと爽やか系イケメンのようにも見えるが、実はこの人、極右。
過激な言動ゆえ、ネットのニュースなどによく取り上げられていた。
つまり、顔をよく知られているのである。
PRという観点から考察すると、Bosakはターゲットのニーズにアプローチするのがうまいというより、自分の見せ方を心得ているという印象。
6月28日の投票では、Bosakの得票率が予想以上に高かったことを「ショックだ」と嘆いているポーランド人の友人が何人もいた。
20代の若い層に人気が高かったらしいが、「なんとなく」のイメージで投票した人も少なくなかったのでは?と思う。
さて、決選投票の結果はどうなる?
今回の大統領選は、今までの自分の人生の中で、もっとも真剣にとらえている選挙だ。
投票権はないのだが。😂
*文中、敬称略