スタートアップについて語る時には必ずといっていいほど登場する言葉の一つ「スタートアップエコシステム」。スタートアップを生み出し、育成していくシステムのことを指すが、そう言われてもなんだかよくわからないという人も少なくないのではないだろうか。実際、私もそうだった。
「エコシステム」という言葉からするとなんだか難しそうだが、シンプルに言うと、困った時やちょっとしたアドバイスがほしい時などに気軽に相談できる人たちが周りにいるかどうか、また、一人ひとりが持っている人脈はたかが知れてるけど、そういうネットワークをシェアすればさらに強力なネットワークができるよね、ということだ。
いわゆるコミュニティがというヤツがちゃんとできているかどうかが重要で、形成には人が集まる”場”、そしてこの場に人が流れていくような仕掛けも不可欠だ。
オンラインでもコミュニティを作ることはできるが、エコシステムとしての機能を期待するならオンラインだけでは不十分。やはりリアルな場所が必要だ。
では、ポーランドのスタートアップエコシステムはしっかり形成されてるのか?
Yesであり、Noでもある。
仕組みとしてはそれなりに出来あがっているのではないかと思う。
スタートアップ系のイベントに来ているポーランド人に「ポーランドのスタートアップエコシステムってどう思う?」と聞くと
「こうやって意見交換する場もあるし、機能してるんじゃない?」と言う。
たしかに、私のような何のバックボーンもない野良犬ならぬ”ノラ日本人”でも、1年くらい足繁くスタートアップ系のイベントに通っていると結構な人脈ができる。
(ただし、魔女の森のごとく情報網を張りめぐらせ、ハンパないアウエイ感にもめげずネットワーキングに励むのが前提ではあるが)
ゼロからスタートの外国人でもこれくらいできるのだから、すでに生活や仕事の基盤があるポーランド人なら、もっとたやすく人脈や情報が得られるはずだ。
では、エコシステムがちゃんと構築されているならなぜ、ポーランドはユニコーンを輩出していないのか?
「内需がそこそこ強いためグローバル化が遅れている」などとよく言われること。さらに私は「仕組みは構築されていても、そこに流れている情報がスタートアップというよりはスモールビジネス向き」ということも原因の一つではないかと思っている。
ちなみに、スモールビジネスとスタートアップの違いをざっくりいうと、スモールビジネスというのはゆるく長く続けるようなスタイル。スタートアップは短期間で事業を急成長させてエグジット(会社を売却するとか、IPOするとか)を目指す。
アメリカ在住の人と話をすると、スモールビジネスとスタートアップはきっちり分けている印象だが、日本やポーランドはその境界がちょっと曖昧な気がする。
スモールビジネスが悪いわけでは全くないが、ユニコーンを目指すのであれば、それなりにスケールできるようなビジネスモデルでないと厳しいだろう。
ではなぜスモールビジネス向けの情報が横行しているかというと、周りにスモールビジネスを営んでいる人が多いから、であろう。当たり前すぎる理由ではあるが。。。
ポーランド人はわりと気軽に会社を立ち上げる。会社、といってもは多くの場合は個人事業主。こちらでは個人事業主から会社というイメージらしい。
ちなみにポーランド語で個人事業主は「jednoosobowa działalność gospodarcza(イエドノオソボヴァ ヂャワルノシチ ゴスポダルチャ)」という(長い!)。
日本では法人格があるかどうかは非常に重要で、「個人事業主」と「会社」を混同することはまずない。もし日本人が「会社を始めた」と言った場合は、法人格のある”会社”を設立したことを意味するのが普通だ。
一方、ポーランド人が「会社を始めた」と言った場合は、かなりの確率で「jednoosobowa działalność gospodarcza」の登録をしたことを指す。つまり個人事業主としてビジネスを始めたということだ。
ポーランドに来たばかりのころは、ポーランド人が「個人事業主」を「会社」と見なす感覚に違和感があったが、ここではそういうものらしい。
日本ならば、まずは個人事業主としてスタートしたとしても軌道に乗れば法人にするケースが多いが、ポーランドでは個人事業主として続行する人が多い。なぜ?と聞いたところ「法人化するメリットがない」という。
たしかに「個人事業主」でもビジネスを運営するのに十分な信頼性が得られ、税金やコストなどで特にデメリットがないならわざわざ法人化する必要はない。
そもそも個人事業主の登録が節税目的という人も多い。
さらに、個人の感想ではあるが、スケーリングということを考えている人が少ないような気がする。内需が強いので、無理してグローバルに打って出なくても、そこそこ市場規模が大きいということも関係しているのだろう。
こんな感じで、周りに”自分のビジネス”を営んでいる人は多い。ただしスモールビジネスとして。
スモールビジネスといっても結構稼いでいる人もいるから、これが自分がビジネスを立ち上げる時のロールモデルとなる。
お手本がこじんまりとしているので、それをモデルにしたビジネスもこじんまりとしたものになる。こういう循環を繰り返しているのではないかと思うのだ。
ということは、ロールモデルがスケールアップすれば、それを見習う方もどんどんスケールアップしていくはず。
今はまだ”生みの苦しみ”の段階かもしれないが、ポーランドからもユニコーンがいくつか誕生してくれば、それがロールモデルになり、世界に通用するスタートアップがどんどん登場してくるような循環が生まれるのではないだろうか。
ポーランドもユニコーン輩出国として知られるようになってくるのではないか?
そんな期待をしてしまうのである。