ポーランドのスタートアップの特徴①

Start Up

「ポーランドのスタートアップってどんな感じ?」と聞かれることも増えてきたのでざっくり解説。
前もって言っておくと、私はポーランド、ウクライナ、日本のスタートアップコミュニティに関わっており、ベルリンや北欧のスタートアップコミュニティともコネクションがある。とはいえ、私自身はスタートアップでもVCでもアクセラレーターでもない。あえていうなら”ジャーナリスト目線”での見解である。

まず、データ的なところから説明すると、StartUp Genomの「THE GLOBAL STARTUP ECOSYSTEM REPORT 2023」のランキングではワルシャワは「新興エコシステムランキング」で昨年と同じく51-60位だ。「2軍の中間よりやや下」くらいといったところか。ちなみにお隣チェコのプラハは昨年の41-50位から順位を上げ31-40位。東京はグローバルスタートアップ・エコシステムランキング2023で15位。

そして未だにポーランドに本社を構えるユニコーンは登場していない。
ポーランド人がアメリカや他のヨーロッパ諸国などで起業したというケースを含めてもユニコーンは出ていない。
イタリアと並び「欧州のユニコーン不毛地帯」と言われているとかいないとか。。。
(イタリアは2022年にユニコーンが登場したが)

ひとくちに”スタートアップ”といっても、お国によって実情は異なるものだが、ポーランドのスタートアップの特徴として目立つのは、全般的にスモールビジネス寄りであること。よその国ではスタートアップに分類されないものが”スタートアップ”と称されていたりする。

例えば
「ポーランドでは床屋をオープンしてもスタートアップだという」

これは私見ではなく、22年11月にワルシャワで開催されたDeep Tech Summitのセッションの一つで実際に語られたことだ。
「床屋」の箇所がパン屋だったり花屋だったりするものの、このこと自体は以前からよく言われている。
おそらく、スタートアップとは何ぞやという理解が深まる前に「自分でビジネスを始める」という意味で「”start up”と行った方がカッコいい」的な感じで使われはじめ、それが浸透してしまったのだろう。

私はスモールビジネスよりスタートアップの方がエライなどとは全く思っていない。
ただこの二つはビジネスモデルが違うので混同しない方がよいとは思う。

今さら言うまでもないが、スタートアップは短期間で急速に成長するビジネスモデルであることが大きな特徴だ。
比較的短期で元が取れると思うからこそVCは投資するわけだし、自社ですべて開発しているのでは時間がかかりすぎるからオープンイノベーションという手段をとるわけである。
短期間に大きく成長するには大きな市場に打って出ることが不可欠なので、必然的にグローバル市場を目指すこととなる。また、ビジネスモデルも目新しさが求められる。

一方、スモールビジネスというのはコツコツ実績を積み上げ、ゆっくり成長していく。いわば”細ーく長く”だ。順調に事業を拡大すれば数年後には”スモール”ではなくなることもあるが、スタートアップとは根本的な考え方が異なる。

繰り返すがどっちが劣るとか優れているとかジャッジするつもりはない。すべての会社がスタートアップを目指すべきだとも思わない。ただし、モノサシが違うと話がかみ合わなくなるので、混同しない方がよいとは思う。

スタートアップというモノサシではかると物足りない感が否めないポーランドではあるが、もちろん若くて優良な企業はある。特にスモールビジネスがスケールアップしたような会社によさげな企業が少なくない。急成長はしなさそうだが、地道にコツコツ実績を積み重ねていくようなタイプ。こういう会社って意外と日本の会社にはマッチするのではないかと思っている。
目新しいビジネスというのは予測が難しい。というか、生き残れるのはほんの一部。アメリカのようにどんどんチャレンジしてがんがん失敗して、さっさと見切りをつけてとっとと再チャレンジ、というのが当り前な国はよいが、日本というのは「失敗しない」ことを重んじる国だ。人口が減り日本市場が縮んでいく状況では”海外との連携”は当然の流れ。だが、必ずしもスタートアップと連携しなければならないわけではない。目新しさはないけれど、逆に言えばわかりやすいビジネスモデルの会社と、イノベイティブ度は控えめながら、昔ながらの安定感のある”業務提携”の方に安心感を覚える企業もあるのではないだろうか。
起業するすべての会社が”スタートアップ”を目指す必要はないように、提携先も必ずしもスタートアップである必要はないのだ。

今回は「ポーランドのスタートアップはスモールビジネスっぽい」という話をしたが、ではなぜそんな状況なのか?は次回に。


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