Venture Network Dayに行ってみた

Start Up

10月、11月はワルシャワでは多くのカンファレンス・イベントが開催される。
ワルシャワ証券取引所(GPW)で「GPW Venture Network Day」というイベントが開催されたので行ってみた。GPWは新たな取り組みの一環としてとしてこのイベントを開催。
つまり第1回。
プレスリリースをチェックすると「Viva Technology のアンバサダーイベント」だとの記載がある。
日本のスタートアップコミュニティでも知名度が高いおフランスのViva Tech。
「アンバサダーイベントって何???」
という疑問は残るが、まあ関連イベントということなのだろう。

で、感想はというと「よくできている」と思った。
ポーランドでスタートアップ系のイベントに行くと、「悪くはないけどなんか物足りない」と感じることが多い。ちょっと雑というか詰めが甘いというか、そんな印象を受けるのだが、このイベントはほどよいコンパクトさで、上手く構成されているように思った。さすがおフランスの息がかかっているだけある。

また「Start Up Network Day」ではなく「Venture Network Day」という名称なのもミソだと思う。
以前の投稿でも述べたが、ポーランドは”Start Up”というモノサシにこだわらず、Ventureというカテゴライズで幅を持たせた方が優良会社をキャッチしやすいと思う。

全般的に及第点なイベントではあったのだが、ちょっと残念なポイントとしては
数あるセッションの中で英語で開催されたのは一つだけということ。
ポーランド-ウクライナのスタートアップの連携に関するセッションのみだった。

コロナ前はスタートアップ系イベントは英語開催が主流だった。イベント参加者のうちNon-Polish speakerは1割にも満たないのに(大半のイベントではアジア人は私一人)英語で開催するのは素晴らしいと思った。その理由を尋ねると「いつ海外のVCが来てもいいように備えている」とのことだった。
なのであるが…
コロナを経て、鎖国状態になっても問題ないことに自信を持ったのか、大多数のイベントがポーランド語化した。おおもとはイギリス系やフランス系のイベントさえもポーランド語化した。
(ウクライナやベラルーシのコミュニティが開催するものは英語が基本)

ポーランド語は非スラブ語スピーカーにとっては非常に難しい。「これって何かの罰ゲームか?」と思うくらいに難しい。特にアジア系言語との相性は悪そうだ。あくまで私の知っている範囲ではあるが、30半ばを過ぎてからポーランド語の学習を始めたアジア人でペラペラになった人を私は見たことがない(たぶんいるにはいるのだろうが)。

よく「言葉の壁」というが、
言葉の壁があるというより、壁を作るのにポーランド語が利用されているように感じる。
以前も述べたが、ポーランド人はできれば身内だけで事を成したいのだ。いちおうグローバル化を目指していても、本音では自分たちだけでやりくりできたらハッピーなのである。
ちなみに、”壁”は言葉の問題だけではなく、言葉の問題をクリアすればすべての壁をクリアできるわけではない。ポーランド人同士でも越えられない壁はいくつも存在する。むしろ外国人の方が越えやすいかも?という壁もある。

まあ、日本も日本語オンリーのイベントが主流なのでエラそうなことは言えないが、日本人の場合は英語力不足というのが大きい。一方、ポーランドは英語を話せる人は多い。いわゆる”いい仕事”に就くには英語力は必要なスキルの一つ。スタートアップ系のイベントに来ている人で英語が全然ダメと言う人には会ったことがない。なのだけど、英語をあまり話したがらないのだ。ちょっともったいない。

偶然にも知人がピッチしているところに遭遇。彼女はウクライナ出身だがポーランドでも会社を設立。

ちょっと話がずれたが、イベントの話に戻す。
「ポーランド-ウクライナのスタートアップの連携に関するセッション」では数人のポーランド、ウクライナの識者がパネルディスカッションを行ったのだが、その中で私が面白いと感じたことがいくつかあった。
その一つはウクライナ出身のVCが「ポーランドはEUのエコシステムの一部として機能しているだけで独自のエコシステムを持たない」という発言。

ある意味、爆弾発言。
ポーランド人は自分たちのことを自虐的に語ることが少なくないが、非ポーランド人がポーランドに批判的なことを言うのは嫌われるので要注意なのだ。
このパネルディスカッションのモデレーターを務めたのは私の友人(ポーランドに長年住むウクライナ人)なのだが、「うわー、ここでそんなこと言うかよ」的な表情をみせ、この発言については深堀されずさらっと流れた。なので発言の本意がイマイチ掴めなかったのではあるが、以下、私なりに、「なぜヨーロッパのエコシステムの一部に過ぎない」のかを考えてみた。

1.”外来種”のイベントが多い。
いわゆる”西側”のプログラムやサービスが中東欧に進出しようという時、その拠点として真っ先に候補に挙がるのはポーランドだろう。約4000万人という人口とEU圏であるのはやはり強い。このイベントもフランスのViva Technology 絡みのようだし、11月に開催されるDeepTech Summitもフランス系だ。私が関わるVenture Cafeはアメリカ発祥。Wolves Summitも創設者はポーランド人だが現在のトップはポーランド人ではないし、ウィーンを開催地にしたりなどポーランド色は薄め。

“ポーランド・オリジナル”としては、コロナ前はReaktorX が小規模だけど個性的なイベントを開催していたが、組織の体制が変わったようで今はやっていない。

結局のところ、ポーランドのエコシステムのフォーマットは”外来種”がメインなのである。
もし”西側”が見向きもしないようなしょぼいマーケットだったら、もっと独自性は高かったのかもしれない。”外来種”がどんどん入ってくるがゆえに、在来種が育ちにくい環境になってしまったのは皮肉なところ。

2.カネの出どころがEUの基金
ドイツやスイスなどは政府、大企業、アカデミアが一体となってエコシステムを形成していると聞く。それに比べると日本はまだ一体感が足りないらしいが、ポーランドはもっとバッラバラである。
そもそもポーランドには、例えばドイツのBMWとかフランスのルノーのように、誰もが知っている世界に名だたる大企業というのがない(大企業の支店はある)。
また、近年のポーランドの発展は、EUからの基金に寄るところが大きく、もしEU基金がなければ現在の姿はなかったであろうとも言われる。スタートアップに関しても、EU基金をもとにした新興企業向けのプログラムが大型投資を行っていたりもする。EU頼みの構図から抜け出せていないということか。
「欧州の工場」として発展してきたポーランドだが、スタートアップエコシステムもそんな感じになってしまっているのだろうか。。。

発言者が言わんとするところと私が感じたことがマッチしているかイマイチ不明なのだが、機会があればもうちょっと突っ込んだことを聞いてみたい。

さて、もう一つ私の関心を引いたのは「ポーランドはウクライナのスタートアップがEU市場に拡大する際の橋渡し役になりえる」という発言だ。
この発言をしたのは、スタートアップ支援組織でマネージャーをしている私の知人(ポーランド人)だったので、セッションの後に少し話をした。
以前から「ウクライナのスタートアップにとってポーランドは最終目的地ではなく通過点だ」という話は耳にしていたが、ポーランドサイドはそれでいいの?という疑問があったのだ。
「そこは全然問題ない」と彼は言う。

IPOがやりにくいなど、ポーランドは制度的に西側に追いついていない部分がある。ポーランド国内ではいろいろ縛りがあるので、スケールアップを図る際に海外に本社を移すというのは常套手段なのだとか。これはウクライナのスタートアップに限ったことではなく、ポーランドのスタートアップにも言えることだ。数年前、「ポーランド発のユニコーン登場!か??」と騒がれたDoc Plannerもその例といえるだろう。創立はポーランドだが2018年に登記上の本社はオランダに移したらしい。
(結局のところ、DocPlannerは評価額10憶ドルを達成したというオフィシャルな発表をしていないようだ=つまり達成していない)

でも、せっかく手塩にかけて育てても海外に行ってしまうのなら意味がなくない?
と質問してみたのだが、
「本社はポーランド以外の国に移転したとしても、ポーランドでもガンガン稼いでくれればそれはポーランドのメリットになる」という。
まあ確かに、本社を移転=完全撤退というわけではない。登記上の本社は移しても実質的な本社機能はそのままというケースもあるだろうし。
しかし、大きくなるには他国に会社を作るというのが前提なら、ポーランドを経由せず最初からオランダだのドイツだのを目指した方がよいのでは?
という気もするのだが、そのあたりはいかに?

「例えばオランダやドイツなどは競争が激しく、生き残るのが難しい。ポーランドはそこまで競争は激しくないからまずはここである程度の実力をつけてから本格的にヨーロッパ市場に参入した方が勝ち残れる可能性が高くなる」という。

基本的にはポーランドより市場規模の小さい国からの進出を想定しているのだと思う。日本の場合はそれなりに競争が激しいマーケットなので、海外展開を目指すくらい成長するまで生き残れたならダイレクトにメジャーな市場を狙った方がいいような気がする。プレシードやシードなどかなり早い段階で海外展開を狙いたい、というようなケースならば向いているかもしれない。

ところで、先にさらっと書いたが「IPOがやりにくい」って、結構大問題ではないか?
具体的に、どうところが、どうやりにくいのか把握しきれていないのだが(スミマセン)、
「ポーランドはIPOがやりにくいって聞いたんだけど本当?」と友人の敏腕国際弁護士(ポーランド人)に尋ねたところ、
「very regulated」との答え。日本語に訳すと「規則でがんじがらめ」ってとこか?

同じ質問をポーランド人Bankerにしたら
「オランダとかで会社作ればいい。何か問題でも?」という。
ってことは頑張ってポーランドでIPOするより、IPOしやすい国に本社を移した方がラクってこと?
余談だが、このBanker氏、
私が「オランダはEU圏外から製品を輸入する際にも税関がフレキシブルだというよね(ポーランドは無茶苦茶融通が利かないらしい)」と言うと
「小さな国は生き残るためにフレキシブルな対応をせざるを得ない」
とのたまう。え、オランダを小国扱いですか??ポーランドが??
たしかに国土面積とか人口はポーランドの方が多いけど。。。
ナゾの大国意識を持っているポーランド人には時々出くわす。
自国を誇りに思うのはいいことではあるけど。。。

ともかく、少なくとも現状ではポーランドではIPOがしにくいというのは事実のようだ。
ということは、Exsitの手段が限られるということか。
日本ではスタートアップのExsitはIPOするのが主流だが、ヨーロッパではM&Aが主流らしい。しかし、あえてM&Aを選ぶのと、M&Aしか選べないというのは同じではない。
日本人的には「IPOしにくい」と聞くと「えー!」となるが
ポーランド人は「そんなもの」的な受け止め方だ。

ただ株式の上場や市場での売買に関する規制が変わるらしいとは聞いたことがある。
最近、ワルシャワ証券所が絡むスタートアップ系のイベントが増えているが、その前振りなのか?

資金調達に関しては、国際弁護士の友人はICO(Initial Coin Offering/新規仮想通貨公開)というやり方もあると言っていた。検索をかけるとポーランド語の情報が結構出てくるので、それなりに利用されているのかもしれない。素人目にもハイリスク・ハイリターンな匂いプンプンだが、そもそもスタートアップ投資はハイリスクだ。仮想通貨を利用した資金調達の方法は他にもあるようなので、もう少し調べたい。

追記:ヨーロッパを投資対象とするVCの日本人マネージャーさんに話を聞いたところ、投資対象を選ぶときにIPOがしにくいかどうかというのはあまり関係ないとのことだった。
むしろ、日本のIPOのハードルの低さは世界から見ると特殊なのだという。

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