Wigiliaに物思ふ

Life

12月24日はポーランドではWigiliaといい、カトリック教徒であるポーランド人にとっては1年で最も重要な日といえるだろう。

ポーランドの文化を伝える素晴らしい日なのだが、外国人がポーランドで暮らすこと、ビジネスを行うことの難しさを象徴しているとも感じる。

まずはWigiliaとはどういうものかをざっくり説明すると、
Wigiliaには家族が集まって特別な晩餐を食す。
食卓に並ぶのは、Barszcz czerwony z uszkami(耳の形をしたピエロギ入りのビーツで作ったスープ), Bigos wigilijny(肉なしのビゴス), Karp smażony(鯉のフライ), Piernik(ジンジャーブレッド)など12種類。12種類の内容は家庭によって多少違うようだが、この日は肉を食べないのが習わしなので魚料理が何種類か供される。
そのほかにも、白いテーブルクロスの下に藁を仕込んでおくとか、Opłatekという薄いウエファースのようなものを、来る年の健勝を願いながらみんなで食べっこするとか、「ポーランドの伝統文化」感が満載だ。
これは特別なことではなく、ポーランド全土でごくごくフツーに行われているのである。
熱狂的ポーランドファンとしては、すごく興味をそそられる。
ぜひぜひ参加したい。
なのだが。。。
これ、”ファミリーメンバー以外立ち入り禁止”イベントなのである。
Boyfriend/Girlfriendなら、かろうじて呼んでもらえるらしいが、ただの友人では参加資格がない。
「家族の集まり」というルールはかなり厳格に守られている。

パートナーもいないし、誰かと付き合う気もない私には「ファミリー」として参加できる場はない=Wigiliaの晩餐には招待してもらえない、ということになる。
しかし、Wigiliaの食卓は参加人数プラスワンの席を用意するという習わしがある。
ポーランドではWigiliaを一人で過ごすのは「よくないこと」だとされる。当日、そういう”かわいそうな人”を見つけたら招き入れるという習慣もある。
この枠に招待してもらうことは可能である。

ポーランドに引っ越した最初の年に、この枠で招待してもらったことがある。
まだポーランドの文化をそれほど知っていたわけではないが、Wigiliaが家族の集まりであるということは理解していた。お誘いがないのもそんなものだろうと受け流していた。
で、Wigilia当日、自分のFacebookに「私は今日、予定がないんだけど、他にも誰か予定が入ってない人がいたら一緒にBarszcz czerwony作らない?」と書き込みをした。
ほんの軽い気持ちで他意はなかったのだが、それを見たポーランド人の友人が数人、「Wigiliaに一人でいるのはよくないことだからうちに来なさい」と誘ってくれたのだ。

で、一番最初に誘ってくれた友人宅に伺った。
典型的なポーランドのクリスマスイブ!という感じで、料理もおいしかった。
特に友人のお母さんが作ったBarszcz czerwonyは絶品!いまだに思い出すくらいおいしかった。
そして皆さんとても親切。
が、よそ様の内輪の集まりに飛び入り参加したわけで、親切にしてもらうほど申し訳ないような気持ちになってきた。
日本人的な感覚としては急な訪問は失礼だし。。。
(私だって多少は日本人的感覚を持ち合わせているのだ)
計画や準備はしっかり行いたい性格なので、行き当たりばったりというのはなんだか落ち着かない。
しかも、「クリスマスを一人で過ごすかわいそうな人」枠というのもなんだかな。自分としては中途半端なパーティーに行くより一人で過ごした方がよっぽど落ち着く。好きで一人でいるのだが、勝手にかわいそうな人枠にカテゴライズされるのもモヤっとする。

できれば事前に誘ってもらえるとありがたい。

ということで、いろいろ試してみたのだが。。。
例えば、Wigiliaの1週間前に自分のFacebookに
「Wigiliaの日に『一人で家にいる』と投稿するので、だれかディナーに招待してくれないか?」と書き込んだ。予告広告のようなものだ。

伝統的ではないものには結構、お誘いいただく。
そしてなんかやたらと心配される。
ポーランド人にとってはWigiliaを一人で過ごすのはかなりよろしくないことらしい。
「困ったわねぇ」と本気で気にかけてくれる。
そんなに心配してくれるなら、Wigiliaのディナーに誘ってくれればよいのに、と思うのだが、「家族の集まり」だから招待できないという。いや、でもWigiliaの当日には一人でいる人を招待する習慣があるんだよね?だったら今誘ってくれないものか?
と思うのだがうまく行かない。
ちなみに「前日に告知する」というのも試してみたがこれも機能しなかった。
「当日」というのは譲れないところらしい。

1年に1回しかチャレンジできないし、途中、コロナの時期もあったので、なかなか思うようなクリスマスイブを過ごすことができずにいた。クリスマスイブというのは私にとってなんだかもやもやする日だったのである。


で、2023年は今一度、ストラテジーを見直してみた。
まず、自分がなぜ悶々とするかというと、伝統的なWigiliaの晩餐に行きたいのに招待されないからである。なぜ招待されないかというと「家族」ではないからで、これはどうしようもない。

もう一つの理由は、前日までに予定を決めようとするからである。Wigiliaの晩餐に参加するなら「家族」枠か「当日おひとり様」枠の2択なのだが、私の場合は後者1択だ。先に述べたように、当日ではなく、数日前に招待してもらえないものかと試行錯誤したが「当日におひとりさま」という前提条件は変えられないようだ。当日にいきなりお宅訪問というのは自分としては抵抗があるのだが、ここは折れるしかない。

そして何を重視しているのか、説明が足りていなかったようだ。
私の目的はあくまで伝統的なWigiliaの晩餐に招待されることなのだ。一人で過ごすのを避けたいわけではない。このあたりが言ったつもりで伝わっていなかったようである

そこで「Wigiliaを一人で過ごすのは自分としては全く問題ないが、Wigiliaはポーランドの素晴らしい文化である。せっかくここにいるのに参加しないのはもったいない。だから誰か伝統的なWigiliaのディナーに招待してほしい。」リアルが難しければオンラインでWigiliaとの雰囲気を見学するのもOKと、Facebookの自分のページに投稿した。「ポーランドの素晴らしい文化を体験しないのはまさに機会損失だ」的なトーンで。

勝率は70%くらいと考えていた。お誘いなしの可能性もあるが、一人で過ごすことに心理的抵抗は全くないし、自分でもBarszcz czerwony z uszkamiやBigos wigilijny,Piernik、Kutiaなどを作っていたので、おひとり様バージョンでもそれなりに楽しめる態勢は整えていた。

「私も一人だから家来る?」と誘ってくれた友人もいたが、私は一人で過ごすのが嫌なのではなく、伝統的なWigiliaのディナーに参加したいのだ、ということを丁寧に説明。例年はこのあたりで日和って伝統的ではないバージョンのお誘いに乗ってしまっていたのでWigiliaのディナーにたどり着けなかったのだ。

投稿して1時間以内に招待してくれる人がいたので、その方の家に伺うことになった。私を含め総勢6名のこじんまりとした、ごくごく一般的なポーランドのWigiliaのディナー。Opłatekでお互いを祝福し合い、食べて、飲んで、おしゃべりして。これだよこれ、私が行きたかったのは。
長年のわだかまりがスーッと消えたような気がして、丸1日は満足感に浸っていた。

改めて、お互いの感覚の違いと丁寧に説明することの重要性を感じた。

今回は満足のいく時間を過ごせたが、冒頭でも述べたように、Wigiliaはポーランドで暮らすこと、ビジネスをすることの難しさを象徴している日でもあると感じる。

海外で暮らしたり、国際間のビジネスを営む場合、相互理解は重要ポイント。
習慣や制度のギャップに対してどうやって折り合いをつけるか、ここが肝心なのである。
日本人は外圧に弱かったり、自分の方が折れることが多い。周りとの和を重視する文化だ。
一方、ポーランド人は外圧に屈するなんてことはまずない。というか、外圧は反射的に反発する。ポーランド人は親切で温かいのだが、自分のやり方は頑として変えない。

こっち側も当然、自分なりのやり方があるわけだが、双方意地を張っていては平行線なので折り合いがつくポイントを見つけなければいけない。この折り合いポイントを見つけるのがなかなか大変だ。アバウトな国民性ならそこそこのところで「ま、いっか」となるのかもしれないが、お互いにまじめで勤勉な国民性ゆえに、いい加減なことはしない。かなーり丁寧に説明していく必要がある。

お互い考え方のベースが違うので、説明したつもりでも伝わっていないことも間々ある。
またどんなに説明しても感覚的に伝わらないこともある。
例えばポーランド人は一様に「Wigiliaを一人で過ごすのはよくない」と言うが、外国人である私にはそんな習慣も感覚もない。ビミョーなパーティーに行くくらいなら一人でおいしいものを作って好きなことして過ごす方がよほど快適なのである。が、このあたりはポーランドには理論的にはわかっても、感覚的には捉えられていないようだ。「Wigiliaを一人で過ごすのはよくない」というのは、ポーランド人は子供のころから刷り込まれているのだ。

「Wigiliaは家族と過ごすもの」というのはステレオタイプな家族の在り方を基準としている。
ポーランドは家族の絆が強い国ではあるが、すべての人にWigiliaを共に過ごす家族がいるわけではない。
”標準”にマッチしない人も当然いるわけだが、その人たちにとってはこの日はかなり居心地悪そうだ。
私は外国人なので開き直って「一人だから誰か誘って~」としれっと言えるが、彼ら/彼女らにとっては一人でいることは罪に等しいのでわざわざ公言はしない。ひっそりと、寝正月ならぬ寝クリスマスイブを決め込んだりするようだ。もしくは海外に旅行に行くか。

マイノリティに対する配慮が足りないんじゃないか?と感じたりする。
そういえば以前、ポーランド語ベラベラでポーランド通の友人が
「ポーランド人はマイノリティに慣れていない」と表現したことがあるが、まさにそんな感じ。
しかし、今やポーランドは移民が多い国となっている。ウクライナ戦争前でさえ約200万人の移民がいるとされており、戦争によりさらに約100万人増えたとされる。人口約280万人のリトアニアより多くの外国人が住んでいるわけで、大量のマイノリティがいるというちょっと複雑な状況になっている。
「時代の変化」というのは「伝統」とはあまり相性がよろしくないものではなるが、このあたりどうなって行くのだろう?

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